ひょっとしたら霞流と過ごすのか? いや、でも美鶴の話では、両想いというワケではなさそうだ。だから霞流からクリスマスのお誘いとやらを受けているとは限らない。だが、美鶴としては、きっと霞流と一緒に過ごしたいとは思っているんだろう。
好きな人とクリスマスを過ごす。これはとっても特別な意味を持つ。できるなら多少強行な手段を使ってでも、共有時間を確保したい。
強行手段。
聡はその言葉に心苦しさを感じる。
自分がそれほどまでに美鶴とのクリスマスを望んでいるのなら、きっと美鶴だって霞流との時間を望んでいるのではないか? 認めたくはないが、それは自然な考えだ。
だったらやはり美鶴も、少し強引な手を使ってでも霞流との時間を作りたいと、思っているのではないだろうか? だとしたら、きっとその計画は誰にも壊されたくはないだろう。だったらきっと、俺たちには絶対に言わない。
言いたくはないであろう情報をどうやって聞き出すか。
あれこれと考えているうちに、もう本番は明後日に迫ってしまった。
「で、どうするんだ?」
瑠駆真の言葉にハッと顔をあげる。
「このままクリスマスは放置?」
「じょ、冗談っ!」
慌てて身を乗り出す。
「そっちこそ、どうするつもりだよ」
「わざわざ敵に手の内を晒すと思うか?」
ニヤリと笑う瞳にギリッと歯噛みする聡。だが、そんな相手に瑠駆真はあっさりと挑発を解く。
「なんて強気な発言ができれば、こちらも悩んだりはしない」
「は?」
呆気に取られる聡を前に、瑠駆真は眉を寄せて視線を落す。
「悔しいかな、僕としてもどうしていいのかわからない。君から呼び出しがなかったら、こちらから呼び出していただろうね」
情けない。
心内で自嘲する。
そうして大きく息を吐いた。
「いろいろ探ってみたけど、美鶴は尻尾を出さないしね。涼木さんに聞いてみたところ、何か予定があるワケではなさそうだけれど」
「涼木?」
「あぁ。何? 聡、涼木さんには探り入れてないの?」
呆れたような視線に、聡は迂闊にも頷いてしまった。
そうだよ、涼木に聞くという手があったんだよ。しかも俺はアイツと同じクラスじゃん。なんで思いつかなかったんだよ。
そりゃあアイツとは田代の件で怒鳴り合ったりはしたけどよ、駅舎で話すうちにそんな事はどうでもよくなってきちまった。優しさが足りないって言葉は気になるけど、ケロッとした態度で話しかけられると、気にしてる方が馬鹿みたいに思えてくる。きっと涼木はもう覚えてもいないのかもしれない。サバサバしたヤツだし。
涼木なら女同士、何か知ってるかもしれない。そんな奴が同じクラスに居たのに、どうして気付かなかったんだ?
自分のポンコツ頭を呪う。
そんな、勝手に一人で苦悩する相手に瑠駆真はチラリと上目使い。
「でも、大した情報は得られなかったよ。ただ、イブに唐草ハウスでやる子供達の劇を観に来ないかって誘ったらしいけど、断られたそうだ」
「何で?」
「賑やかなのは苦手、だそうだ」
美鶴らしい回答だ。だが、聡はなんだか腑に落ちない。
本当にそれだけだろうか?
そう疑ってしまうのは、好きだから?
苦悩から一転して考え込んでしまった聡に、瑠駆真は真剣な表情で問いかける。
「本当に、それだけの理由だと思うか?」
「正直、思いたいという希望はある」
「所詮は希望ね」
「あぁ、所詮は希望だ」
二人の思惑が交差する。
「それとなく聞くか?」
「聞いて口を割ると思うか?」
「思わない」
けど―――
「時間もない」
「もっともだね」
瑠駆真の返答に聡は再び考え込み、瞳をギュッと閉じて息を吸った。
「いや、やっぱり聞こう」
言って頭を上げる。
「こういうのは姑息な手段を使って探っても無駄だ。正しい情報を手に入れられるという保証もない」
「だが、聞いても教えてくれるとも限らない。本当に何の予定もないのかもしれない」
「だったら一緒に過ごそうって、誘ってみる」
「面倒だから嫌だなんて、いつもの適当な理由で断られたら?」
「信じる」
聡は大きく息を吸い、瑠駆真へと言いうよりも自分に言い聞かせるように言った。
「何も予定が無いと言うのなら、俺はその言葉を信じる」
それしかないだろう。
空を仰ぎ、キッパリとそう答える聡を、瑠駆真はなぜだか悔しいと感じた。
潔い。
そんな言葉がお似合いだ。
そうだ。聡には潔さがある。自分のようにネチネチと疑ったり探ったりせず、堂々と男らしく立ち向かう清々しさも兼ね備えている。
自分には無い。持ち合わせてはいない魅力だ。
やっぱり自分は劣っている。
そんな劣等感に動揺する心の内を悟られぬように、瑠駆真は聡とは逆に視線を落として言った。
「じゃあ、放課後だな」
「あぁ」
「わかっているだろうが、聞く時は一緒だ。抜け駆けは無しだぞ」
「お前こそ」
聡の言葉に、瑠駆真はなぜだか冷めた笑みを見せる。
「今の僕には、君を出し抜ける自信は無いよ」
「なんでだよ?」
「僕の場合、下手に問い詰めたらあの写メの件を持ち出されて無駄な口喧嘩に発展しそうだ」
途端、聡の脳裏にまざまざと浮かび上がる。抱き合う瑠駆真と、美鶴。
「結局、あの写真は何なんだ?」
事件から日が経ち、校内も落ち着きを取り戻してきたが、それでも教室の隅で含み笑いを交えながら噂する生徒は存在する。
忘れたくても、忘れられない。
「あの写真はどういう事だ? 何があった?」
地を這うような低い声。詰め寄る聡を無感情な視線で見返す瑠駆真。
「君には説明したくない」
「このまま言わずに済むとは、まさか思ってはいないよな?」
「済めばいいとは思っている」
「済ますかよっ」
今にも飛び掛りそう。
「いい機会だ。説明しろ」
だが瑠駆真は、そんな気迫を込めた相手を真っ向から見返す。
「嫌だ」
「テメッ」
「今は言いたくない」
「いつだったら言いたくなるんだ?」
嫌味を込めた言葉に、瑠駆真は視線を落した。
言いたくない。
小童谷陽翔に、目の前でいとも簡単に美鶴を奪われたなどとは、悔しくて、情けなくて、とても聡には言えない。
あの場にいたのが聡だったなら、きっと聡なら美鶴を奪われたりはしなかったはずだ。その機転と気迫で、きっと美鶴を護りきったはずだ。
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